【静岡県島田市】「島田髷まつり」の歴史・魅力に迫る!気品あふれる日本髪の文化を次世代へ
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お茶の生産量日本一を誇り、“地球上で最も緑茶を愛する街”としてうたわれる静岡県島田市。実はお茶以外にも注目したい伝統文化やお祭りなど、あまり知られていない魅力が潜んでいます。今回は”島田”という地名に由来するとされる日本髪「島田髷(まげ)」の起源や「島田髷まつり」について、祭りの保存会会長や結髪師、髷娘経験者にお話を伺いました。
日本髪発祥の地・島田
日本人ならではの美しく艶ややかな黒髪を結い上げ、着物や浴衣に凛と映える日本髪。その代表的な髪型の一つに、静岡県島田市に古くから伝わる「島田髷」が挙げられます。
「島田髷」の起源は諸説ありますが、島田出身の遊女「虎御前(とらごぜん)」が考案し、結ったのが始まりとされています。また、「しまだ」という地名は「(髪を)締めた」という言葉が変化して根付いたものとも言われているそうです。
島田髷は、髷(トップノット)を折り曲げ、その途中を元結(もとゆい)で締めるのが特徴ですが、一口に島田髷と言っても、結うシーンや年齢、結い方、かんざしのバリエーションなどで、その種類は35にも上るとか。
花嫁が結うとされる最も優美な「文金高島田(ぶんきんたかしまだ)」や、婚礼期の女性が色々な掛け物を使い華美に装うことから別名「さいそく島田」とも呼ばれる「乙女島田」など、「島田」と名が付く髪型が多いことからも、島田と髷の関係性や歴史の深さが伺えます。島田髷は江戸時代によく見られた髪型で、当時は女性の年齢や身分が髪型で分かったほど、女性にとって大切な身だしなみの一つであったと言われています。
「島田髷まつり」を守り受け継ぐ使命をもって
「島田髷というのは実に美しく、年代やお顔の個性に関わらず、日本人女性の真の美しさを引き出してくれます」。そう語るのは「島田髷まつり保存会」の会長・鈴木房雄(すずきふさお)さん。結髪師である奥さん・文代(ふみよ)さんと夫婦で「鈴木美容室」を営んでいます。
「島田髷まつり」は、虎御前の供養と結上文化への感謝を込めて1933年に開催された「虎御前感謝祭」が始まり。日支事変の勃発とともにしばらくの間中断が余儀なくされましたが、1965年ごろに「島田髷まつり保存会」によって再開されました。以来、毎年9月の第3日曜日に開催され、2022年で第64回を数えます。
祭り当日は、髷娘として市内の女性約80名が島田髷を結い、そろいの浴衣を着て、奉納踊り(手踊り)をしながら街中を練り歩く「髷道中」が繰り広げられます。そして、虎御前が祀られている「鵜田寺(うだじ)」で「髷供養感謝祭」が行われ、髷娘全員で墓参りをします。
※新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年・2021年の開催は中止。2022年は規模・内容を縮小して、3年ぶりの開催となります。また、髷娘の応募年齢は中学生以上、おおむね35歳までに制限しています。
房雄さんは、ご両親が「島田髷まつり」に深く関わってきたこともあり、小さい頃から祭りがにぎわう様子を間近で目にしてきたそう。
「島田には大井川が流れていて、全国各地から旅人や芸者、接客業の人々がここへ降りたち、島田髷や祭りの文化が栄え、守られてきました。また、山形や京都のお嬢さんが髷祭りを一目見に来たり、記念に髷を結って一週間はその髪型で過ごしたりと、日本髪のファンの方々からも注目されてきました。この地で昔から守り愛されてきた文化や、保存会の諸先輩の方々の思いをここで途絶えさせてはいけない!その使命感に駆られています」と房雄さん。
房雄さんら保存会は毎年講師を呼んで「結上げ勉強会」を実施。かつら結上げや地毛結上げ、髪飾りの着け方などを地元の美容師に伝授するなど、伝承に力を入れていて、20〜30代の参加者も少なくないとか。現在島田市では、祭り当日、25軒ほどの美容院で結上げが行われています。
「島田髷まつり」は地域に伝承されている歴史・技術を生かしていることが評価され、2013年には「第18回ふるさとイベント大賞」優秀賞を受賞しています。
文代さんもまた、美容師であった母や恩師の背中を見て、島田髷の文化を守り受け継ぐことを決意したそう。「複雑な髪型で地毛で結うものだと2時間ほどかかるものもあるのですが、目の前で女の子が目に見えて髷娘になっていく様子が美しくて。みんな“私じゃない、もう一人の自分みたい”と目を輝かせてくれるんです。小さい頃から毎年髷娘として参加する子がいたり、姉妹で参加したりと、地元の子どもたちの成長を見守ることができるのもこの祭りの醍醐味です。まるで自分の娘のようでかわいいですね」とやりがいを語ってくださいました。
文代さんに日本髪を結う際に使う小道具を見せてもらうと、「前髷」や首元の「髷(たぼorつと)」など、日本髪のパーツごとに使い分けるというくしがずらり。ツゲの木で作られた伝統的なくしには、「月形」や「なぎなた」、「はまぐり」など、くしの形に由来したユニークな名前が付けられています。
髪飾りも、かんざしやびらかん、つまみかんざし、手絡(てがら)、鹿の子(かのこ)など多種多様。一つひとつ意味合いや使用される日本髪の種類が違っていて、そのどれもが日本髪の美しさを引き立てるのに一役買っています。
髷娘が帯に刺すうちわも「島田髷まつり」の注目ポイントの一つ。うちわそれぞれに、髷娘が結ってもらった髪型と美容院の名前が書かれています。祭りに参加した記念に、うちわを大切に保管している髷娘も多いんだそう。
伝統と先代の思いを次世代へ
島田市の広報活動でモデルを務める門谷彩加(もんやあやか)さん。中学3年生のときに「島田髷まつり」に髷娘として初参加し、以来5回ほどにわたって祭りに参加してきた髷娘経験者です。
初めて祭りに参加した際の感想を伺うと、「とにかくカツラが重くて苦労しましたね(笑)」とほろ苦いエピソードが。「ですが、髪型や衣装でまったく違う自分に生まれ変われて、お客さんに“きれいだね”とたくさん褒めてもらえたのはうれしかったです」。
一度は祭りのために地毛を伸ばして参加したこともあるほど、「島田髷まつり」には思い入れがあるとか。妹さんや叔母さんと一緒に参加した経験もあり、いろんな世代の人が輝き、交わることができるのも「島田髷まつり」の魅力だと言います。
「島田髷まつり」では髷娘が4曲の踊りを奉納し、その全てを3日間ほどの練習会で習得します。元々日本舞踊を習っていて、踊りは得意だったという門谷さん。髷まつりの経験を重ねると、練習の際は輪の中心に入って、後輩たちへ踊りの指導をしてきたそう。
「輪の中心でお手本になったり、自主練習のために動画撮影に協力したり、祭りの後継のためにできることを考えてやっていました」と語る門谷さん。地元の美容師さんはもちろん、保存会会長の鈴木さんともつながりがあり、「島田髷まつり」に携わる人々の思いをしっかり受け継いで伝承しようとする姿勢が印象的でした。
「何回か参加すると顔見知りの子もいっぱいいて、同窓会みたいで楽しいんです。日本髪を結ってもらうという、なかなか機会のない経験ができて私たちも自然と笑顔になれますし、それで周りのお客さんも笑顔になってくれたらうれしいですね」と門谷さん。
島田の秋を告げる風物詩「島田髷まつり」。今年も美しい島田髪と笑顔をまとった髷娘たちが、島田の街を華やかに彩ります。