ユネスコ無形文化遺産登録後初めての「徳山の盆踊」をみて【徳山の盆踊レポート】
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「徳山の盆踊」とは、毎年8月15日※の夜に川根本町徳山地区で、約400年前から継承される伝統芸能。
踊りの形態は、地域の歴史と風土を反映し多彩な姿で今日まで続く「風流踊」のひとつとして、2022年11月にユネスコ無形文化遺産に登録された。
鹿の被り物をつけ、跳ぶように舞う踊り「鹿ん舞」や、境内のやぐら舞台で唄に合わせて少女たちが京の舞妓姿で優雅に踊る「ヒーヤイ」の風流踊りと狂言を交互にするのが特徴。
※2023年は台風7号接近の為16日に延期して実地
「徳山の盆踊」を見に行ってきました
8月16日に開催された「徳山の盆踊」を見に行ってきました。開催場所の「徳山浅間神社」は静岡県の川根本町にある神社です。
例年は15日に行われますが、今回は台風接近の為、延期となり16日の開催でした。雨が降ったり止んだりの天気でしたが、みなさん傘を差しながらの観覧。かき氷やアユの塩焼きなどの、出店も出ており、途中花火大会も開催され見ごたえのあるお祭りでした。
18時半ごろから鹿ん舞やヒーヤイの方たちが浅間神社まで列をなしてやって来ました。
狛犬が人間でした
浅間神社の狛犬……ではなく「鹿ん舞」の人間になっているところが面白いです。徳山の盆踊で行われる「鹿ん舞」をモチーフにしています。
見どころを紹介
【鹿ん舞】
自分の体よりもはるかに大きな重さ推定30~40キロの露払いを持った少年が、先に鹿ん舞が踊る道を走ります。鹿ん舞はくるくると紅白の棒を回しながら飛ぶように舞う踊りです。かつては二十歳になる青年が成人礼儀として踊っていましたが、徳山地区の青年の減少により、現在は中学生男子が踊っています。
【ヒーヤイ】
小学生と中学生の女子で構成されています。一般的な盆踊りとは違い、男性の唄とお囃子に合わせて踊る古き良き盆踊りです。
【狂言】
現在行われているのは「頼光」「新曽我」の演目のみですが、14の台本が残されており、かつてはこれらの演目も行われていました。最も古い台本で宝暦9年(1759年)と記してあり、この狂言の起源はかなり歴史があることがわかります。
徳山の盆踊の芸能に出演される方は40名ほどでした。演目も多く、練習時間も相当必要だと思います。
どんな方がこのお祭りに参加しているのでしょうか
徳山の盆踊の伝承団体である「徳山古典芸能保存会」の事務長、上野信吾さんにお話を聞いてきました。 上野信吾さんは、祭全体の連絡調整をしながら、狂言にも出演していました。
—ユネスコ無形文化遺産に登録されてから初めての開催ですが、今年の徳山の盆踊はどうでしたか。
上野さん
登録後初めての開催で、徳山の人だけでなく、県内、日本全国からネットで情報を見て来るのではないか、もしかしたら外国の人も興味を持って来るかもしれないという事で、お祭りだけじゃなく夜店の準備や看板やポスターも新しく作り、準備をしました。
15日に「今年は盛大にやろう」と思っていたら、台風7号が直撃。急遽16日に延ばして開催をしました。16日は雨が降ったり止んだりで不安定な天気でしたが、当日みなさんは傘をさして来てくれてありがたかったです。何とかやり遂げられて良かったなと思っています。
—いつから徳山の盆踊の準備をはじめましたか。
上野さん
6月の初めから準備をはじめました。このお祭りは当番組が決まっているんですよ。徳山の中には32の班があってその中から2班ぐらい組んで当番でやっていく。たまたま今年受け持つ当番の世帯数が7軒と、5軒と世帯数が少なく、かつお年寄りが多い班だったんです。だから当番の班の人だけで祭りを運営していくのはとても無理と思われたので、そこをどうカバーしていくのか、そういった会合を3回行いました。7月25日から具体的な練習を行いました。小中学生や大人の伝承者が一日おきの夜に全部で10回集まって踊りなどの練習をしました。
—小学生と中学生の方が踊られているのですね
上野さん
具体的に言うと、鹿ん舞を踊っているのは全員中学生、徳山地区だけでは人が足りないので、元藤川地区の子どもたちにも手伝ってもらいました。中3が5名、中2が5名、中1が6名、例年になく多かったです。例年10人いるかいないかなので今年は活気がありました。人数が足りない年は小学校6年生、5年生にも出てもらいましたが今年は中学生だけで奉納できました。
今は廃校になってしまったけど、徳山には「中川根第一小学校」という学校が今年の3月までありました。そこでは、総合的な学習の時間に「鹿ん舞」を練習して学習発表会の時に保護者に披露していました。だから練習を重ねればお祭りで披露できるくらい笛が吹けたり、踊ることができました。ところがその学校も廃校になってしまい、3つの小学校が統合して徳山のことだけを取り上げて総合的な学習の時間に取り組むわけにはいかない。中学に上がる時に一から練習しないといけないので今後が心配です。
—ヒーヤイの女の子たちは小学生と中学生ですか
上野さん
中学生が5名、小学生が5名の計10名でやっています。徳山の子だけで構成されています。今後数が減っていくと、鹿ん舞と同じように隣の元藤川の子たちに参加をお願いしなければいけない。もっと広げて川根本町内から参加をお願いしなければなりません。練習は夜行われるので、子供が自分で来るわけにはいかないから、親の車による送迎などサポートが必要になる。それができるかどうかも心配しているところです。
—伝承していくためにどのような対策をしていきますか
上野さん
ホームページなどで協力してくれる人たちを募って行ったり、移住者に声をかける事をしていきます。川根本町を気に入って移住した人たちは興味や関心が高く、「楽しそう」「できる事は手伝いたい」という前向きな気持ちを持ってお手伝いをしてくれます。
—今回川根本町に移住された方でお祭りに参加された方はいらっしゃいましたか
上野さん
お祭りのお囃子に移住者の方がいます。以前川根本町が募集していた「緑のふるさと協力隊」という制度で移住してきた方が、任期後もそのまま住み、その方たちがお囃子を手伝ってくれています。地元の人が後を継いでくれるよりもむしろ移住者が手伝ってくれる可能性の方が高い。今後もそういった移住者が増えてくれたらいいなと思います。新しいことに挑戦しようとこちらの世界に飛び込んで来てくれる若い方や子育て世代が移住して来てくれればいいなと思います。
ゆくゆくは鹿ん舞とヒーヤイを担ってくれたらと、長い目で跡継ぎをつくっていく、移住者がいればこちらから積極的に声をかける。ホームページなどを使ってお祭りの協力者を呼び掛ける。ユネスコ無形文化遺産に登録され注目されているから、これをきっかけに継承者やお手伝いしてくれる人を増やしたいと思います。
お囃子を担当する元「緑のふるさと協力隊」の移住者に話を聞きました
緑のふるさと協力隊とは?
「緑のふるさと協力隊」は、過疎化・少子化に悩みながらも地域を元気にしたい地方自治体と、農山村での活動や暮らしに関心をもつ若者をつなげるプログラム。
上野さんの話に登場した元「緑のふるさと協力隊」で川根本町に移住した丸野宏夏さんにお話を聞きました。鹿児島県から川根本町に移住したそうです。丸野さんは徳山の盆踊でお囃子をやっています。
—川根本町に移住したきっかけは何ですか?
丸野さん
大学の時に緑のふるさと協力隊の応募をして川根本町に配属されたことがきっかけです。大学3年生の時に就活の一環でNPOの説明会を聞いて応募をしました。全国に派遣先があって自分で派遣先を選ぶ事は出来ませんでした。配属が決まるまでは全く川根本町のことを知りませんでしたが、人もあたたかく来てよかったと思っています。
—徳山の盆踊に参加したきっかけは何ですか?
丸野さん
徳山の盆踊は地域の活性に繋がればと思いお誘いを受けて参加しました。若い伝承者が少なく、今は移住者と町外に住んでいる人の協力でなんとか継承している状況です。このままだと継承者がいなくなってしまうのではないかと毎年危機感を感じていますが、少しでも継承の手助けができればいいなと思っています。
大学では民俗学の講義が好きでした。このお祭りは京都の戦乱を逃れて来た人達の文化的影響が強いと聞き、そういった経緯などを深く知ることができ、自分の好きな分野ともマッチしていて参加することは楽しいと感じています。
お祭りや伝統が好きで、わざわざ笛を吹くために通って来てくれる人もいたり、OGとしてもう一度お囃子で参加してくれる人もいたり、少しずつ新しい風が入っています。これからもいろんな人が関わってくれたらいいなと思います。
伝統も大事ですが、単純にお祭りがあると活気が出るのでお祭りの雰囲気が好きです。
取材を終えて
移住者や年代の違う方との交流や、歴史に触れることができるよいきっかけになるお祭りだと思いました。今回取材したお二人からは、伝統をつないでいきたいという強い思いが伝わりました。
10月8日(日)に、「徳山神楽」という秋祭での神楽奉納があるそうです。上野さんはこちらの方がひっそりとしていて好きだとおっしゃっていたのでまた徳山神楽にも行きたいと思います。
Written by 島田市地域おこし協力隊 中澤 緑
徳山浅間神社
- 住所
- 〒428-0301 静岡県榛原郡川根本町徳山2893
- 電話
- 0547-57-2843(徳山事務所)
月~金曜(祝日は除く)9:00~11:00 12:00~16:00
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